合同大会の抄録集ができました.(2001年11月26日更新)


第54回日本寄生虫学会南日本支部・第51回日本衛生動物学会南日本支部合同大会抄録

[特別講演1]  Toll-like Receptor-植物から高等動物における病原体認識機構  三宅健介・東京大学医科学研究所感染遺伝学

 我々は常に、細菌など病原体の脅威にさらされている。腐敗という現象が細菌増殖によるということを明らかにしたのはパスツールである。適度な温度、栄養素があるにもかかわらず、我々の体が腐敗しない理由は、病原体を察知して排除する免疫機構にある。腐敗しにくいのは我々だけではない。昆虫、植物などすべての多細胞生物において感染症は脅威であり、それぞれの生物は感染防御機構を備えている。ヒト、マウスを中心としたこれまでの免疫学はリンパ球を中心とする獲得免疫の解析が主であった。そのような免疫学でリンパ球を持たない昆虫、血液細胞もない植物における感染防御機構を理解することは困難であった。感染防御機構の誘導は病原体の認識にかかっている。宿主と病原体の認識、識別はすべての感染防御機構において必要とされる。植物やハエにおける病原体認識分子が遺伝学的解析において最近明らかにされつつある。トマトにおける病原体認識分子として、CF-9、CF-2など、ハエにおける病原体認識分子としてTollが報告されている。これらの分子はトマト、ハエにおいて真菌を認識し、感染防御反応を誘導する分子である。病原体認識に関わるドメインがロイシンリッチリピートで構築されている点においてこれらの分子は共通しており、興味深い。その後TollのヒトホモローグとしてToll-like receptor(TLR)ファミリーが同定され、ヒト、マウスにおいて病原体認識、感染防御反応誘導に使われていることが明らかにされてきた。これらはマクロファージを中心とする自然免疫機構における病原体認識に重要な役割をしている。自然免疫におけるTLRは、獲得免疫における抗体やT細胞レセプターに相当するといえる。このように自然免疫についての理解が最近急速に進み、我々の免疫機構の基盤は昆虫や植物の感染防御機構と共通している事が明らかにされてきた。ヒト、マウスにおいてTLRは11個ほどある事がわかっている。その中で、病原体の特異性が明らかになっているのは5個ほどである。TLR2がグラム陽性菌由来のリポペプチドを、TLR4がグラム陰性菌由来のリポ多糖(LPS)、TLR5が細菌鞭毛の主成分であるフラジェリン、TLR9が細菌DNAをそれぞれ認識する。これらの特異性をみると、TLRは主に病原体の糖質、脂質を認識する事がわかる。この点、タンパクを認識する獲得免疫と相補的といえる。TLRの病原体認識は単独ではなく、他の分子を必要とする事が最近明らかになりつつある。LPS認識はTLR4だけでなく、TLR4の細胞外ドメインに会合するMD-2が必要であることを我々は明らかにしている。またTLR4/MD-2に構造的に類似しているRP105/MD-1もB細胞におけるLPS認識に重要な役割を果している。さらにTLR2が認識するときには、TLR6とダイマーを形成する事が必要である。現在のところ、TLRを刺激する糖脂質や核酸とTLRとの直接結合はまだ証明されておらず、その認識機構について、分子レベルでの理解には至っていない。本学会では、我々の結果も交えながらこれまでのTLRについての知見を紹介するとともに、今後明らかにされるべき点についても触れてみたい。

[特別講演2]   環境ホルモンと無脊椎動物 有薗幸司・熊本県立大学環境共生学部 

 環境問題としてフロンガスによるオゾン層の破壊、地球の温暖化、砂漠化、絶滅危惧種の増加などに加えて、化学物質の問題がある。ダイオキシン類や PCB 類などのように残留性が高く、健康に悪影響を与える恐れのある物質が社会問題となっている。PCB 類は製造・使用が禁止されているが、分解性が悪く、体内にも蓄積し生物濃縮する。ダイオキシン類も PCB 類と同様に生物濃縮し、発ガン物質として認知され、緊急対策により焼却炉からの排出を低減化することが取り決められている。農薬も残留性の高いものや、毒性の強いものは代替品に変えられてきている。残留性の高い化学物質だけでなく、今までは安全と考えられて環境中に放出されていた農薬、界面活性剤、プラスチック原材料などの物質の中に、生体のホルモン受容体、特に女性ホルモン受容体に結合することにより、あたかも女性ホルモンと同じ様な働きをする化学物質、男性ホルモンや甲状腺ホルモンの受容体に結合してホルモン作用を阻止する物質など(環境ホルモン、内分泌かく乱物質)が明らかになった。ダイオキシン類や PCB 類などは生物濃縮により食物連鎖の上位の動物であるヒトのみならず、イルカ、クジラ、アザラシおよび猛禽類などの皮下脂肪に高濃度で蓄積されている。環境化学物質は水系に入り水棲動物の生殖を撹乱する懸念がある。これら化学物質群は構造的に様々な作用機構を持ち、ヒトや野生生物の内分泌機能に不可逆的な影響を及ぼすとされる。それらは様々な機構を介して働き、最も広く研究されているのはエストロゲンレセプターを介した作用である。この構造と機能の多様性は検出を特に難しくしており、室内実験で得られた影響の度合が生態系の意義にどのようなものか未だはっきりとしていない。そこで自然界の生態系における内分泌攪乱影響を示す化学物質の検出と評価に資する総合的なバイオアッセイ系が必要とされている。近年、多くのin vitroエストロゲンアッセイが用いられているが、これらのアッセイは、大量の化学物質を機械的に選別できることから効率的かつ費用効果に優れているが、生態系をその母集団レベルで評価する情報は得られない。一方、環境中における内分泌攪乱物質の無脊椎動物への影響として有機スズ化合物に曝露された海産巻貝におけるユimposexやユintersexユがある。無脊椎動物における内分泌攪乱は、性分化や発生以外にエクジステロイド系が重要と思われているが、無脊椎動物における内分泌攪乱化学物質の影響に関するバイオアッセイはまだ確立されていない。今回、環境ホルモンと野生生物、特に昆虫・寄生虫など無脊椎動物との関係を概説し、我々が取り組んでいる無脊椎動物種を用いた内分泌撹乱に関する総合的なバイオアッセイ系について紹介する。

[招待講演]   Towards elimination of lymphatic Tllariasis in Africa  

Nijeri Wamae, Kenya Medical Research Institute, Nairobi, Kenya and Department of Parasitology 

 Over 120million people in 73 countries worldwide are afflicted by lymphatic filariasis, a leading cause of morbidity. Approximately one-third of people with this infection live in Africa. Among the three etiologic agents, Wuchereria bancrofti, is the only known cause of infection in Africa where an estimated 564 million persons are either infected or have chronic disease. The introduction of single-dose treatment regimens with either diethylcarbamazine (DEC) or ivermectin has been an important breakthrough for filariasis control. In May 1997, the World Health Assembly passed a resolution calling for "...the elimination of lymphatic filariasis as a public health problem.." Subsequently, the Glaxo Smith Klineユs (GSK) drug albendazole, used for decades to combat geohelminths, was recommended by WHO to be used in conjunction with either DEC or ivermectin to break transmission of lymphatic filariasis. The principal strategy for the global control of lymphatic filariasis is now based on annual, single-dose treatment of all eligible members of high-risk communities. We report here, the progress made so far by Wuchereria-endemic African countries towards this goal.

寄生虫学会

寄−1 南米産Trypanosoma cruziのアイソザイムパターンにみられる遺伝子交換の可能性について 

○ 肥後廣夫1・三浦左千夫2・堀尾政博3・三森龍之4・竹内 勤2・多田 功1 (1九大・医・寄生虫、2慶応大・医・熱帯寄生虫、3産業医大・熱帯寄生虫、4熊大・医・腫瘍医学)

 シャーガス病の病原体であるTrypanosoma cruziの自然界における遺伝子交換については、疫学的にも病理学的にも重要な問題であるが、いまだ一定の見解はない。Tibayrencのグループは南米の広い範囲から得られた株について集団遺伝学的解析をおこない、遺伝子交換がおこなわれているにしても、その頻度は非常に低いと報告している(Tibayrenc and Ayala, 1988; Tibayrenc et al. 1990; Ayala, 1993; Tibayrenc,1995)。しかしこれまで南米各地より得られた株からのアイソザイムやDNA分析から、遺伝子交換を示唆する結果も得られている(Lewicka et al. 1995; Bogliolo et al. 1996; Carrasco et al. 1996)。演者らが中米グアテマラの比較的狭い地域から得られた株について集団遺伝学的解析をおこなった結果も、遺伝子交換の可能性を示唆していた(Higo et al. 1997, 2000)。今回、演者らは南米ボリビアを中心とする株のアイソザイム分析をおこなったところ、離れた系統間での遺伝子交換を示唆するパターンが得られたので報告する。

寄−2 マラリアとαサラセミアの関係に対する分子集団遺伝学的研究  

濱野真二郎1・○小林 茂2・酒井保禎3・柴田弘紀3・古海弘康3・姫野國祐1・川崎晃一4・服巻保幸3 (1九大院・医・寄生虫、2阪大院・文、3九大・生医研・遺伝情報、4九大・健康科学センター)

 熱帯のマラリア流行域に高頻度に見られるαサラセミアは、αグロビン遺伝子の発現異常をきたす遺伝性貧血症の一つである。鎌形赤血球貧血症やβサラセミア同様、マラリアに対する抵抗性があるために選択されてきたと考えられている。我々は、上記「マラリア仮説」を検証するためにネパールの二つの民族集団DanuwarとTamangにおいてαサラセミアに関する分子集団遺伝学的解析を行なった。Danuwarはマラリアの危険性の高い、標高1200m以下の地域で生活するのに対し、Tamangは危険性の低い1200m以上の地域で生活している。PCR法を用いて両集団内のαサラセミアの有無を検討した。その結果、Danuwarでは3.7kb欠失型のα+サラセミアを高頻度に見出した。37%が3.7kb欠失型のホモ接合体であり、52%がヘテロ接合体であった。αサラセミア遺伝子の頻度は63%であった。一方Tamangではホモ接合体、ヘテロ接合体はそれぞれ1%、8%であり、その遺伝子頻度は5%と明らかに低かった。両集団内に4.2kb欠失型のα+サラセミアや α0サラセミアは認められなかった。一方ミトコンドリアDNAのD-ル−プ領域の塩基配列の比較では、この二つの集団の多様性に有意な差は見られなかった。集団間の遺伝的な分化の程度を示すfixation index(FST)を計算したところ、αグロビン遺伝子の3.7kb欠失の頻度からは0.55となり、ミトコンドリアDNAから計算される0.05より有意に大きかった。以上より、ミトコンドリアDNAのD-ループ領域はマラリアによる選択に対して中立に進化してきたと仮定すると、Danuwarにα+サラセミアが高頻度に見られるのは、びん首効果などの遺伝的浮動によるものでなく、マラリアに対する生物学的適応の結果と結論された。

寄−3 広東住血線虫感染マウス脳脊髄液からのRT-PCR法による診断の試み 

◯沢辺京子・金澤 保 (産業医大・寄生虫学・熱帯医学)

 広東住血線虫症の診断は、旅行、居住、食歴などを指標に、脳脊髄液中の好酸球数増多や各種免疫学的診断から得られる臨床所見をもとに行なわれるが、決め手となる本幼虫の脳脊髄液中や眼球中からの検出は非常に稀である。そこで私達は、脳脊髄液中に存在するであろう本虫由来のRNAをRT-PCR法を用いて検出し、確定診断に適用しようと計画した。まず、ヒトの本症の格好の動物モデルと見なされるマウス(ddY系統)を用いてRT-PCR法の諸条件を検討した。本線虫感染後5日毎に40日後まで各5匹のマウスを開頭し1ml RNA抽出試薬(Sepazol RNA-II)で摘出した脳表面および頭蓋骨腔を洗浄し脳脊髄液として回収した。Total RNA抽出後45℃30min、 94℃2min、(94℃15sec-55℃30sec-70℃1min)×40サイクル、72℃10minの条件でRT-PCRを行なった。PCR産物が得られたプライマーはBr320、Br540で、いずれも本線虫の脳軟膜中の発育ステージである5期幼虫に特異的に発現するタンパク(Joshua et al.1995)の塩基配列から各々作成したものである。マウスでは感染後20日前後をピークに髄液好酸球数の増減が見られるが、好酸球数が増え始める感染後10日後の脳脊髄液中からBr320プライマーで増幅されたPCR産物が、また、ピーク後の25−35日後ではBr540由来のPCR産物がそれぞれ検出された。今後ヒト脳脊髄液サンプルからの検出に応用する予定である。

寄−4 Nippostrongylus brasiliensis感染によって誘導されたStat6非依存性の好酸球増多

◯坂元幸子・石渡賢治・中村(内山)ふくみ・名和行文 (宮崎医大、寄生虫)

 寄生虫感染やアレルギー疾患でみられるTh2反応はIL-4とIL-13の細胞内シグナル伝達物質であるStat6 依存性であるという報告が多い。今回、われわれはTh2反応の一つの指標である好酸球応答についてStat6の関与を調べた。Stat6欠損マウスとその野生型のC57BL/6マウスにNippostrongylus brasiliensis (Nb)を感染させ、末梢血好酸球の変化を経時的に調べた。初感染後12日までは、Stat6欠損マウスはC57BL/6マウスと同様に好酸球増多を示した。C57BL/6マウスでは排虫とともに好酸球数は低下したが、Stat6欠損マウスでは排虫はなく、好酸球は白血球数全体の45%位まで上昇した。駆虫後の再感染ではC57BL/6マウスでは迅速な好酸球増多がみられたが、Stat6欠損マウスではC57BL/6マウスと比べて緩徐であった。Stat6欠損マウスのリンパ球はTh2細胞に分化・増殖できないことが示されている。また、Stat6を欠損したマウスにアレルゲン全身感作後、肺に暴露を繰り返しても肺への好酸球浸潤はみられず、気道過敏性も軽度である。しかしながら、Th2応答の一つの指標である好酸球増多がNb感染によってStat6欠損マウスでも認められたことからStat6を介さない好酸球増多の経路が示唆された。 Stat6欠損マウスでは再感染時の好酸球増多は遅れてみられたことから、Stat6は再感染時の迅速な好酸球応答に関与していることが考えられた。

寄−5 マウス腸管からのNippostrongylus brasiliensis排除は粘液糖鎖末端のシアル酸発現に依存する 

◯石渡賢治1・J.F. Urban, Jr. 2・中村(内山)ふくみ1・名和行文1 (1宮崎医大・寄生虫、2USDA, ARS, Beltsville, MD, USA)

 ラットにおけるNippostrongylus brasiliensis(Nb)の腸管からの排除は、杯細胞の産生する粘液糖鎖末端の変化に依存することが示唆されている。すなわち、Nbの排除時には未感染の杯細胞粘液糖鎖末端には存在しなかったGalNAc、GlcNAcおよびsialic acidが強く発現される。今回、マウスにおけるNbの排除も杯細胞粘液糖鎖末端の変化に依存するのかどうか検討した。Nb排除の起こる直前(感染仔虫の経皮感染後8日目)のBALB/cマウス小腸組織を4% paraformaldehyde/PBSで固定、パラフィン包埋、薄切し、レクチン染色を施した。用いたレクチンはGS-II、SBA、LFA、SJAおよびUEA-Iで、それぞれGlcNAc、GalNAc、sialic acid、GalNAcおよびfucoseを認識し結合する。未感染に対して感染後8日目に結合性を増強したレクチンはLFAとUEA-Iであった。すなわち、排虫時期に杯細胞粘液糖鎖末端にシアル酸とフコースが強く発現されることが示唆された。次に、抗CD4抗体を投与してNbを排除できない状態にしたマウスおよび抗CD4抗体とともにIL-13を投与してNbを排除できる状態に戻したマウスでLFAとUEA-Iの結合性を調べた。LFA陽性細胞数は両群でともに増加がみられたが、Nbを排除できるマウスで有意に増加がみられた。一方、UEA-I陽性細胞数は両群で増加し、差はなかった。LFAは、糖鎖末端のシアル酸を結合の様式を問わずに認識する。そこで、糖鎖末端のシアル酸の結合様式が排虫に関係するかどうかを検討するために、α-2-3の位置で結合するシアル酸を認識するMAAレクチン、α-2-6の位置のシアル酸を認識するSNAレクチンを用いた。MAA陽性細胞数はNbを排除する群で多く、排除しない群で少なかった。SNA陽性細胞数は両群で差がなかった。これらのことから、マウス腸管からのNb排除においては、杯細胞の粘液糖鎖末端へのシアル酸の発現、とくにα-2-3の位置で結合したシアル酸の発現が関与している可能性が示唆された。

寄−6 129SvJマウスのNippostrongylus brasiliensis 感染に対する自然抵抗性 

○小原章央・中村(内山)ふくみ・坂元幸子・石渡賢治・名和行文 (宮崎医大・寄生虫)

 昨年の南日本支部大会において我々は、129SvJマウスがベネズエラ糞線虫Strongyloides venezuelensis(Sv)感染に対し自然抵抗性を示すこと、またこの自然抵抗性は腸管相で発現し、高濃度のコンドロイチン硫酸がSv定着を阻止することを報告した。今回我々は、129SvJマウスの自然抵抗性がSv特異的かどうかを見るために、129SvJマウスにNippostrongylus brasiliensis(Nb)第3期感染幼虫を感染させ糞便内虫卵数(EPG)を調べた。その結果、129SvJはコントロールのC57BL/6に比ベEPGが少なく、感染7目目の腸管に寄生しているNb虫体数は129SvJの方が有意に少なかった。このことから129SvJマウスはNbに対しても自然抵抗性を示すのではないかと考え、それが感染防御のどの段階に起因するのかを検討した。感染後2日日の肺からNb虫体を回収したところ、129SvJとC57BL/6で差は認められなかった。このことから129SvJのNbに対する自然抵抗性は皮下移行期に発現するのではないと考えられる。一方、Wistarラットの肺から回収したNb幼虫500匹を129SvJとC57BL/6マウスに経口投与し、24時間後の腸管に定着している虫体数を調べたところ、C57BL/6に比べて129SvJの方が有意に少なかった。これにより129SvJマウスのNbに対する自然抵抗性は、腸管における寄生/定着の阻害に起因することが明らかとなった。ラットにおいて、Nbの腸管への寄生/定着の阻害には腸管杯細胞から産生される粘液の糖鎖末端の変化が関与していることが明らかとなっている。129SvJにおいても同様に腸管杯細胞粘液が関与しているのではないかと考え、現在、組織学的に検討中である。

寄−7 マウスにおけるNippostrongylus brasiliensis rat-adapted, mouse-adapted strain間の寄生動態の違い  

○中尾 博・石渡賢治・中村(内山)ふくみ・名和行文 (宮崎医大・寄生虫学) 

 Nippostrongylus brasiliensis(Nb)は本来ラットを宿主とする消化管寄生線虫である。多数のrat-adapted Nbを実験的にラットに感染させると感染後5日日より産卵し始め、2週間後には排除される。Rat-adapted Nbをマウスに感染させるとほとんど虫卵産生することなく感染後6−7日目に排除される。一方mouse-adapted Nbはマウスに感染させると感染後5日目より産卵を始め、9−10日目に排除されるまで産卵し続ける。このようにNbのstrain間でマウスにおける寄生動態が異なる。今回この動態の違いが何に基づくものであるのか解明するべく実験を行った。Mouse-adapted、rat-adapted Nbの第三期幼虫をマウスに感染(500匹/頭)させ、感染後2日目の肺、5日目の小腸からそれぞれNbを回収した。回収数はともにmouse-adapted Nbで有意に高かった。また感染後5−7日目のマウスの糞便にrat-adapted Nbの虫卵をほとんど認めなかった。これらのことから、rat-adapted Nbはマウスにおいて体内移行および小腸の定着能がmouse-adapted Nbに劣ることが示唆された。Mouse-adapted Nbはrat-adapted Nbに比べ、マウスに感染する能力が遺伝的に高いと思われる。この遺伝的相違について現在分子生物学的に解析している。

寄−8  Strongyloides ratti第3期幼虫のサーモキネシスにおける酵素およびレクチン処理の影響 

○工藤(戸畑)博恵1・工藤秀明2・古賀正崇1・多田 功1 (1九大・医・寄生虫、2産業医大・医・第2解剖)

 線虫の感覚器官アンフィドの温度センサーは、周りの環境温度を認識し、その行動を決定すると考えられている。我々は、寄生性線虫Strongyloides rattiの第3期幼虫のアンフィドの機能解明を目的とした研究の一環として、アガロースゲル上での温度勾配におけるS.ratti第3期幼虫の行動を解析し、この幼虫のサーモキネシスに関する基礎的知見を得てきた。今回、これまでに明らかにしたサーモキネシスの知見を基に、アンフィドの温度センサーとしての機能に影響を与える物質を検索することを目的として、本幼虫を種々の酵素およびレクチンでそれぞれ処理し、アガロースゲル温度勾配上での行動パターンを観察した。その結果、α-グルコシダーゼ、β-グルコシダーゼおよびConA処理虫において、温度勾配に対して明らかにコントロールと異なる行動パターンが観察され、これらの物質がアンフィドの温度センサー機能に影響を及ぼしたものと考えられた。さらに、FITC標識ConAを用いた蛍光レクチン組織化学的解析により、頭部アンフィド領域に特異的な結合を示すシグナルが観察され、アンフィドにConA結合部位が存在することが明らかとなった。

寄−9  糸状虫感染幼虫の宿主血清への走化性−分子量3000以下の分画を認識する−

○藤巻康教、Nipul Kithsiri Gunawardena、青木克己 (長崎大・熱研・寄生行動制御)

 糸状虫感染幼虫は蚊が吸血する時に蚊の吻より宿主の皮膚に達した後、吸血によって生じた小孔より宿主体内へ侵入する。が、その機構はまだ解明されていない。そこで、まず我々は糸状虫感染幼虫が宿主へμの侵入行動を観察できるin vitro assay systemを確立させた(第53回日本寄生虫学会南日本支部大会、2000)。すなわち、0.6%寒天平板上で、中央にBrugia pahangi感染幼虫(BpL3)10隻をハンクス液2μlに入れ、中央部から左右に5mm離れた所に、蒸留水と宿主(スナネズミ)血清を2μlずつ置いて、室温で反応させると60分後には90%以上のBpL3が血清の方へ誘引された。今回我々はこのアッセイシステムを用いて、感染幼虫が認識する宿主(スナネズミ)血清の成分解析を行ない、これまで得た結果を報告する。感染幼虫が認識する血清成分の特長は1.分子量3000以下である。2.耐熱性である。3.クロロホルム/メタノール処理により、水溶性分画に活性があり、脂溶性分画には活性がない。現在、さらに解析を進めているところである。

寄−10  Possible Role of Calcium /Calmodulin Pathway as mediators of the Host Recognizing Mechanisms of Filarial lnfective Larva

○Nipul Kithsiri Gunawardena, Yasunori Fujimaki, Yoshiki Aoki (Dept. Parasitol. Inst. Trop. Med., Nagasaki Univ.)

 Filarial infective larvae enter the host through the puncture wound caused by the mosquito. Mechanism by which larvae find the wound remain uncertain. To elucidate the possible mechanisms, we established an in-vitro assay system and reported last year. Using this assay system we examined what kind of pathways of signal transduction are involved in host finding of larvae. Firstly we examined the involvement of calcium/calmodulin pathway. While Nicardipine (calcium channel blocker) and W7 (calmodulin inhibitor) inhibited host finding ability of the larvae, W5 (inactive analog of W7) did not inhibit it. We also examined effect of EGTA, calcium chelator, on the response of the larvae to host serum. Larvae incubated in EGTA reduced the host finding ability. These finding suggest that presence of calcium ion in the solution where larvae are deposited is essential for the recognition of host signal(s) and calcium/ calmodulin pathway in the larvae is possibly involved in their host finding behaviour.

寄−11 日本住血吸虫幼虫におけるTGF-β様分子の発現 

○平田瑞城1・原 樹1・平田和穂2・川渕 優2・福間利英1 (1久留米大・医・寄生虫、2九大・院・医・形態解析)

 Transforming growth factor β(TGF-β)は極めて多様な生物活性を有し、個体発生、成長、分化に不可欠なサイトカインであり、感染防御或は病理症状とも深く関与する。自由生活性C.elegansではTGF-βホモログが発現し、その機能についてかなり分っている。最近ではフィラリアでC.elegansやほ乳類のTGF-βホモログが発現する事が報告された(1997-2000)。今回、我々は日本住血吸虫の幼若虫体(セルカリア、シストソミユーラ)についてTGF-βの免疫組織化学的検索を行い、その発現と変化を調べた。方法; セルカリアはパラフォルムアルデヒド固定後マウス肝臓内に注入してパラフィン包埋した。シストソミユーラはマウス皮膚に感染させ、30分、8、24,48時間後、同じ液にて固定後、パラフィン切片、或は凍結切片を作成した。プローブとして抗マウスTGF-β1、β2、β3抗体を用いた。免疫組織学では酵素抗体法、蛍光抗体法を用い、詳細な検討は共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)観察によった。結果; セルカリアにおいて全てのisoformのTGF-βの免疫活性がtegumentと体内に認められた。これらの反応はペプチドブロッキングで阻止された。CLSMで観察を行うとTGF-β1はtegumentの他、限局した subtegumental cellにのみ反応を認めた。また、腹吸盤と考えられる部位に強い反応性を認める事が特徴的所見であった。TGF-β2は体内では比較的に瀰慢性に認めた。TGF-β3では強い反応性をsubtegumental cellとそれに続く突起に認めた。皮膚侵入後の変化をみると、いずれのisoformのtegumentにおける発現が48時間後に激減することが観察された。これらの結果から、日本住血吸虫幼若虫体におけるTGF-β様分子の発現は感染時に重要な役割を果たすことが考えられた。

寄−12 WSX-1のTh1応答惹起における役割:新規サイトカイン受容体WSX-1欠損マウスはLeishamania major 感染に感受性を示す。

○濱野真二郎1・吉田裕樹2・Tak W. Mak3・姫野國祐1 (1九大院・医・寄生虫、2九大・生医研・免疫制御、3トロント大・Amgen)

IL-12受容体と相同性を持つWSX-1(TCCR)はタイプIサイトカイン受容体ファミリーに属するが、そのリガンドは現在不明である。WSX-1の生体における役割を解析する目的でWSX-1遺伝子変異マウスを作成し、10回以上の戻し交配によりC57BL/6バックグラウンドマウスを作成した。WSX-1-/-マウスは、WSX-1+/-マウスやWTマウスに比べてLeishmania major感染に対する抵抗性が減弱していた。WSX-1-/-マウスのpopliteal LN CD4+T細胞では、感染5日及び2週後のIFN-γ発現が野生型細胞に比べ著しく低下しており、Leishmania抗原特異的なIFN-γ産生もほとんど認められなかった。ところが感染4週目以降になると、WSX-1-/-CD4+T細胞によるIFN-γの発現・産生は、WTと同レベルまで誘導された。一方、WSX-1-/-CD4+T細胞によるIL-4の発現は、感染5日目まではWTと同レベルであったものの、感染2週目以降は常にWTより高い発現を示した。また、WSX-1-/-マウスでは、感染8週後の血清IgG1・IgEがWTに比べて上昇していた。これらの結果より、WSX-1分子は感染早期のT細胞によるIFN-γ産生並びに速やかなTh1細胞の誘導に重要な役割を果たす一方、感染後期のT細胞によるIFN-γ産生には関与しないことが示された。以上より、WSX-1分子は細胞の活性化早期にTh1/Th2分化をつかさどる重要な分子であることが示唆された。

寄−13 BALB/cマウスマクロファージにおけるプロスタグランジン産生増強

○黒田悦史・山下優毅 (産業医大・医・免疫)

 BALB/cマウスはLeishmania (L.) major感染によりTh1細胞の活性化が誘導されず、感染抵抗性を獲得できないことが知られている。我々は昨年の本大会において、BALB/cマウスにおけるTh1の活性化抑制にプロスタグランジン(PG)が重要な役割を演じていることを報告した。今回、BALB/cマウスマクロファージのPG産生能について検討した。チオグリコール酸誘導腹腔マクロファージをin vitroで、L.major, lipopolysaccharide (LPS), 及びStaphylococcus aureus Cowan I (SAC)で刺激し、サイトカイン及びPGE2産生をELISA法にて測定した。BALB/cマウスではC3H/Heマウスに比してIL-1α、IL-6、PGE2の産生が増強していたが、IL-12、IFN-γの産生は低下していた。IL-1αの刺激によりBALB/cマウスではPGE2を産生したが、C3H/Heマウスではその産生は弱かった。これに一致して、BALB/cマウスでは刺激によるcyclooxigenase(COX)-2の発現が増強していた。以上の事から、BALB/cマウスではL. majorなどの感染早期にPGが大量に産生され、Th1の活性化を抑制し、感染抵抗性が誘導されないものと考えられた。

寄−14 MSP1/hsc70 融合蛋白ワクチンによるPlasmodium yoelii感染に対する肝細胞期防御免疫 

川畑優子・本間季里・鵜殿平一郎・上田正勝・○由井克之 (長崎大・医・免疫)

 肝細胞期と赤血球期の両者に有効なワクチンは、新規と持続感染の両者を抑制し極めて有効な効果を期待することができる。MSP1は、赤血球期原虫に対する有力なワクチン候補抗原であるが、肝細胞期原虫にも発現される。本実験では、MSPl/hsc70融合蛋白ワクチンを用いて、スポロゾイト感染に対する肝細胞期防御免疫が成立することを示す。さらに、その防御機構についても報告したい。MSPl/hsc70融合蛋白は、大腸菌から精製した組換え蛋白である。Hsc70などのストレス蛋白が、結合分子に特異的なCD4及びCD8細胞両者の免疫応答を効率よく誘導するアジュバント効果を有することを利用した。他のアジュバントを用いることなく、MSPl/hsc70融合蛋白でマウスを免疫した後Plasmodium yoeliiスポロゾイトの感染実験を行い、肝細胞期の防御効果について検討した。まず、原虫特異的RNAをRT-PCRで増幅することにより肝臓内の原虫数の変化を検討した。免疫したマウスでは、非免疫群に比べ原虫数の著明な低下を認めた。さらに、感染後の感染赤血球数を検討した結果、免疫群では全く出現しないか、出現が非免疫群に比べ著明に遅延していた。これらの結果から、MSPl/hsc70の免疫により誘導されたMSPl特異的免疫応答が、肝細胞期における防御免疫に有効であることが示された。

寄−15 Protective immune responses against Leishmania major infection induced by IL-18 expression plasmid delivery with the gene gun 

○Yang LI 1・Yoichi MAEKAWA2・Shinjiro HAMANO1・Tohru SAKAI2・Kazunari ISHII1・Manxin ZHANG1・Masa-aki Nishitani2 and Kunisuke HIMENO1 (1Dept. Parasitol., Grad. Sch. Med. Sci., Kyushu Univ., 2Dept. Parasitol. and Immunol., Tokushima Univ., Sch. Med.)

 Our previous data have demonstrated that cytokine expression plasmids delivery with the gene gun was capable of regulating immune responses and the course of L. major infection. As IL-18 has been shown to play a critical role in the development of a Th1 response and protective immunity against intracellular pathogens, here we investigated the therapeutic effect of IL-18 expression plasmid delivery on the susceptible BALB/c mice infected with L. major. BALB/c mice were challenged with L. major subcutaneously into the hind footpad. Simultaneously, they were treated weekly with 4μg mature IL-18 expression plasmid DNA with the gene gun. Treated mice showed decreased footpad swelling and less parasite burden than did control mice. Significantly increased level of IFN-γ was detected in these mice at 3 weeks of infection. These mice also generated more NK cells as well as markedly enhanced NK cells activity than did control mice. Furthermore, IL-18 induced iNOS expression from macrophages of these mice. In vivo depletion of immune cell subsets demonstrated that NK cells and CD4+T cells played critical roles in this treatment group, which were capable of providing the sources of early IFN-γ production. Our results suggest that delivery of an IL-18 expression plasmid using the gene gun technology is able to protect against an intracellular protozoan infection, with the induction of a Th1 type immune response.

寄−16  Protective immunity against Toxoplasma gondii infection in mice immunized with different forms of SAG1 expression plasmids using gene gun technology 

○Kazunari ISHII1, Yoko NAKANO2, Tohru SAKAI2, Shinjiro HAMANO1, Maxin Zhang1, Akihiko YANO3, Kunisuke HIMENO1 (1Dept. Parasitol., Faculty. Med. Sci., Kyushu Univ. 2Dept. Parasitol., Sch. Med. Tokushima Univ. 3Dept. Parasitol., Sch. Med. Chiba Univ.)

  Protective immunity against Toxoplasma gondii infection only partially induced by conventional vaccination approaches using parasite antigens. One of the reason may be that CD8+T cells, which are important for protection against intracellular parasite infection, were not extensively induced. In this study, the gene encoding SAG1, a vaccine candidate which expressed on surface of T. gondii parasite, was used to construct different type of plasmids and protective immunity induced by DNA vaccination with such plasmids was investigated. Plasmid construction were included 1. plasmid expressing a naive SAG1, 2. plasmid expressing a secretary type SAG1, 3. plasmid expressing a ubiquitin fusion SAG1. Then, BALB/c mice were immunized by in vivo transfer of those plasmids using gene gun. Two weeks after last immunization, the mice were infected with lethal (RH) strain of T. gondii. Mice immunized with plasmid expressing an ubiquitin fusion SAG1 were protective but mice immunized with plasmid express naive SAG1 were not. Mice immunized with plasmid express secretary SAG1 were slightly protective. Two weeks after gene gun immunization with the plasmids, cytotoxic T cell activity was analyzed with SAG1 transfected RENCA, a carcinoma cell line, as target cells. CTL activity was induced in mice immunized with plasmid express ubiquitin fusion SAG1 but not induced in mice immunized with other plasmids. This data suggest that plasmid expressing a ubiquitin fusion SAG1 induced SAG1 specific CD8+T cell activation. Our data also showed that cytokines production and SAG1 specific antibody titers in mice immunized with plasmid expressing a secretary SAG1 were higher than that in mice immunized with other plasmids. These data suggests that plasmid expressing a secretary SAG1 induced CD4+T cell activation. Our results suggest that the different types of expression of same antigen affects the vaccine effectivily. Effector cells for the gene gun induced protection are now under investigation.

寄−17 日本住血吸虫症の病理 (4)虫体結節について 

○中島敏郎1・平田瑞城2・福間利英2 (1CRC久留米研究所,2久留米大・医・寄生虫)

 【研究目的】ヒト日虫症剖検例にしばしば観察される境界明瞭な硝子体(虫体結節)の形態学的特徴並びに宿主に及ぼす影響について検討した。【検査項目】(1)ヒト硝子体結節と白色カトにおける実験的虫体結節との形態学的類似性の検討。(2)ヒト虫体結節の分類(1型、2型)。(3)2型虫体結節の種々相。(4)2型虫体結節の宿主に及ぼす影響。【検査成績】(1)炎症細胞浸潤をはじめ、肉芽腫を形成したヒト硝子体結節と実験的カト虫体結節との類似性が示唆された。(2)虫体結節は2型に分類され、1型虫体結節は剖検例では観察されず、切除虫垂1575例中、僅か1例に観察され、形態学的に明らかに2型虫体結節、カト実験的虫体結節と異なっている。(3)2型虫体結節は単一切片で見ても346剖検例中、79例に観察され、検出率は極めて高い。また2型虫体結節は、硝子化結節が主体を示すほか、石灰化・骨化虫体結節、虫卵含有虫体結節などが観察される。(4)多数の2型虫体結節が副血行路を完全閉塞している症例が観察され、このような症例では肝循環障害を加速する可能性が示唆された。【結語】346例のヒト日虫罹患剖検例並びに1575例の摘出虫垂を検索し、虫体結節の検出率、カトにおける実験的日虫症治療例と対比し、その類似性から虫体結節の形態発生を推測、特殊な虫体結節(1型)の検討、多数の虫体結節の観察された症例では、日虫症の治療が高度の肝循環障害を惹起し、肝病変を悪化する可能性が強く示唆された。

寄−18 ウエステルマン肺吸虫肝内迷入の2例  

○中村(内山)ふくみ1・鍋島一樹2・佐々木道郎3・石渡賢治1・名和行文1 (1宮崎医大・寄生虫、2宮崎医大病院・病理部、3鹿児島市医師会病院・放射線科)

 ウエステルマン肺吸虫がヒトヘ感染した場合、本来の寄生部位である肺以外へも移行し、症状をひき起すことが知られている。皮膚・脳へ移行した場合を除き、腹腔臓器・泌尿生殖器などへの迷入はほとんど症状があらわれず、手術後の病理組織内に陳旧性の病変が偶然に見つかることが多い。今回、私達はウエステルマン肺吸虫肝内迷入の陳旧例と新鮮例を報告する。【症例1】62歳、女性。宮崎県在住。1980年、腹部エコーで胆石を指摘されるが、無症状のため経過観察となる。1990年になって、右背部痛を自覚するようになり、近医受診。腹部ィ線写真、エコー、CTにて胆石および肝内腫瘤石灰化を認めた。胆石症および肝内胆石症の診断の元、宮崎医大で胆嚢・肝右葉切除術を受けた。術前の検査データで特記事項なし(末梢血中白血球数5,100/mm3、好酸球3.0%)。肝病理組織標本にて小蓋をもつ虫卵が多数見られ、形態および大きさからウエステルマン肺吸虫卵と同定された。患者血清を用いてmultiple-dot ELISA法による免疫診断をおこなったが、ウエステルマン肺吸虫に対する抗体は陰性であった。以上の所見より、ウエステルマン肺吸虫肝内迷入の陳旧例と診断した。【症例2】44歳、男性。C型慢性肝炎経過観察中。2000年10月頃より、発熱・腹部膨満感・右季肋部痛が出現した。腹部CT上、胆嚢炎・肝被膜炎・肝嚢胞、傍大動脈リンパ節腫大が認められた。末梢血好酸球増多(白血球数10,000/mm3、好酸球14.5%)、血清総IgE上昇(7047 IU/ml)がみられ、イノシシ肉の食歴があることからウエステルマン肺吸虫症を疑われた。multiple-dot ELISA法による免疫診断で、血清および肝嚢胞液ともにウエステルマン肺吸虫抗体陽性であった。便虫卵検査陰性、肝嚢胞液中も虫卵陰性であった。胸部ィ線、CTではリンパ節腫大以外の肺内病変は認められず、その他の所見を総合してウエステルマン肺吸虫肝内迷入と診断した。プラジカンテル75mg/kg/day、3日間投与が著効し症状・検査データ・画像所見の改善を見た。

寄−19 北九州市の屠畜場における作業行動とトキソプラズマ症へのリスク 

○堀尾政博1・中村和弘2・嶋田雅曉3 (1産業医大・寄生虫・熱帯医学、2北九州市食肉センター・3長崎大・熱研・資料情報センター)

 屠畜場におけるトキソプラズマ感染の危険性を明らかにする目的で,北九州市食肉センターにおける屠畜従事者の作業行動を調査し、同時に屠畜従事者および搬入豚のトキソプラズマに対する抗体陽性率、抗体価の変動との関係を解析した。その結果、屠畜従事者67人中トキソプラズマ抗体陽性22人(陽性率32.8%)、搬入豚は208頭中陽性19頭(陽性率9.1%)であった。屠畜従事者の年令および従業年数別の比較では、30才以下では0%、31才以上では40%前後の抗体陽性が認められ、特に61才以上では66.7%と高率であった。従業年数別では、5年以下で25.0%、6年以上で41.5%の抗体陽性が認められた。また、豚屠畜従事者(陽性率32.4%)と牛屠畜従事者(33.9%)との間に抗体陽性率の差は認められなかった。屠畜従事者は依然としてトキソプラズマに対する高い抗体陽性率を有しているが、若年層および従業年数が少ない群では抗体陽性率がかなり低くなっている。また、搬入豚の抗体陽性率が昔と比べ著しく低くなっていることから、屠畜場におけるトキソプラズマ感染の危険性は低くなってきているものと推察された。

寄−20 西表島産リュウキュウイノシシにおけるセタリアの一種(Setaria bernardi)の寄生率について 

○奥土晴夫・當眞 弘・佐藤良也 (琉球大・医・寄生虫)

 沖縄県八重山郡西表島において、冬季の11月中旬から2月中旬がリュウキュウイノシシの猟期であり、食用に供される。セタリアの一種(Setaria bernardi)は人体への影響は考えにくいが、畜産業においては今後問題になる可能性があり、これまでこの地域における本種の寄生率についての詳しい報告は見られない。そこで、2000年12月〜2001年2月にかけ西表島舟浮集落で捕獲されたリュウキュウイノシシについて寄生率を調べた。解体時に、血液の採取と腹腔内の成虫の採集をおこない、血液はギムザ染色した塗沫スライド標本を作製、検鏡し、ミクロフィラリアの有無をチェックした。その結果、調査した34個体のうち、血液中のミクロフィラリアおよび腹腔内成虫の両方が確認できたものが3個体、ミクロフィラリアのみが確認できたものが1個体、成虫のみが確認できたもの1個体の合計5個体(15%)で本種の寄生が確認できた。今後、媒介蚊の特定など、さらに詳しい生活史の解明が必要である。調査にあたり検体採取に協力いただいた池田米蔵、大嶺英松両氏に感謝申し上げる。

衛生動物学会

衛−1 里山と山の中の山の蚊 2. 卵トラップによる幼虫調査 

◯都野展子 (長崎大・熱帯医学研・生物環境)

 蚊成虫の垂直分布を里山と人里離れた山の2箇所で調査した結果を本支部会で昨年報告したのに続き産卵生態について報告する。長崎市内の金毘羅山約360mと大村市多良山系内郡岳約820mの各所にタマゴトラップ(容量1500cc)を2000年7月から設置し現在まで水棲昆虫幼虫を調査した。トラップ内の種組成及び水質(pH, NH4, NO2, Ca, Mg, PO2, COD)を測定した。越冬幼虫期を除きサンプリング毎に容器内の水・幼虫を空にしたのでトラップ内群集はほぼ1世代毎にシャッフルされている。そのため、蚊の繁殖状況ではなく、局所的な成虫密度(source)を背景にした蚊の産卵場所選好を調べていると考えられる。5属10種の蚊; Tripteroides bambusa, Culex. sasai, Cx. kyotoensis, Cx. palidothorax, Cx. halifaxii, Armigeres subalbatus, Aedes japonicus, Ae. albopictus, Ae. nipponicus, Uranotaenia novobscuraとハナアブ、ユスリカ、ヌカカ科の幼虫を採集した(種未同定)。 Cx. pipiensは人家域のみから採集した。これらの蚊相は季節的に変化したため、同時期に同サイトで得られたサンプルについてトラップ内の群集と環境の対応をCanonical Correspondence analysisで多変量解析した。その結果水質よりも明暗差が重要と考えられた。二つの山域では郡岳で人吸血嗜好性のない種も含み蚊密度が低かった。この違いは、人密度よりも、森林構成樹種やギャップ頻度による光条件の違いから説明すべきかもしれない。落葉広葉樹の残る里山に対し自然林は常緑広葉樹の被度が高くギャップも少ないので全体に暗い。

衛- 2 Laboratory and Field Evaluation of three Copepods species as Predators of immature Aedes albopictus

○Hamady DIENG, Nobuko TUNO, Yoshio TSUDA, and Masahiro TAKAGI (Dep. Vector Ecology and Environment, Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University)

 In view of the recent successes with the use of Mesocyclops in dengue vector control in Vietnam, to date, copepods are the most promising biological control agents. As biological control depends on additional research, especially the discovery of capable new species, here we assessed the predatory effectiveness against the dengue vector, Ae. albopictus of Mesocyclops pehpeiensis Hu, 1943, Macrocyclops distinctus Richard 1887, and Megacyclops viridis Jurine, 1820. Copepods were collected from ricefields in Nagasaki Prefecture, in April 2000. The three species differ in size and in reproductive ability. These two parameters are known to influence predation effectiveness and population increase. In the laboratory, all species killed first, second, and third instar larvae but none of them did kill fourth instar. Daily consumption varied between 6 to 36 larvae according to larval instar and predator species. In the long-term predation trial, all species did feed readily on developing larval populations of Ae. albopictus even alternative food was available. The three species are being evaluated against Ae. albopictus in the field. Artificial containers were set in peridomestic area to allow Ae. albopictus colonization. Introduction of each species and mixture of the three species changed the larval densities between treated and controls containers. Copepods-introduced-habitats contained low average numbers (Macrocyclops 0.41; Mixture 1.16; Megacyclops 3.91; Mesocyclops 4.58) of immatures compared to control (56.9). In all treated containers, all the species increased in number excepted Mesocyclops pehpeiensis in mixture.

衛−3 大阪府下泉南地域の蚊について On the mosquitoes collected in the south Izumi area Osaka prefecture,Japan. 

○ 水田英生1・野田孝治1・安居院宣昭2 (1関西空港検疫所、2感染研・昆虫医科学部)   Hideo Mizuta,Koji Noda, Noriaki Agui

泉南地域には関西国際空港があり、海外から侵入してくる蚊科への対策を立てる上で関西国際空港のある空港島を含め、南泉州地域の蚊相を把握しておくことは重要なことである。我々は1998年4月から2001年6月まで関西国際空港において、また、2000年4月から2001年6月まで空港対岸の泉佐野市、泉南郡田尻町、泉南市において蚊の生息状況を調査した。空港島内では幼虫の調査に加え、2000年4月から空港島に10の升目を引き、各升目ごとに2個の産卵トラップを設置して調査を実施した。対岸の調査では海岸地帯、平野(水田)地帯、山脚地帯に分けて幼虫の調査を実施した。空港島においては足掛け4年の間に4属13種の蚊が採集された。特に、イナトミシオカCulex inatomiiは4年連続して採集され、また、2000年の7月と12月にはネッタイイエカCulex quinquefasciatusの一代限りの繁殖を確認した。対岸の調査では7属16種の蚊が採集され、2000年に新たに分布記録したヤンバルギンモンカTopomyia yambarensisは高密度に採集された。空港を含め泉南地域で採集された蚊は6属21種であり、侵入蚊が比較的定着しやすい環境であることが明らかとなったのでその詳細について報告する。

衛−4 フライトミル法によるアブ類の飛翔能力の測定

○上宮健吉(久留米大・医・生物)

摩擦ロスの少ない磁気浮上式のフライトミル装置によって野生の各種アブ類を固定飛翔させ、諸飛翔能力を測定した。アブ科のウシアブ(15♀♀)の平均値は、総飛翔距:8.564km、総飛翔時間:115.13分、総飛翔速度:4.68km/hを示した。ウシアブ個体別では最長連続飛翔距:15.82km、最長連続飛翔時:370.26分、最長連続飛翔速度:8.15km/hの個体があった。イヨシロオビアブ(1♀)は総飛翔距離:1.25km、総飛翔時間:24.49分、総飛翔速度:3.05km/h、最長連続飛翔距離:0.58kmを示した。ムシヒキアブ科ではアオメアブ(1♀1♂)の平均値は総飛翔距離:1.71km、総飛翔時間:32.38分、総飛翔速度:3.59km/h、最長連続飛翔距離:0.22kmを示した。シオヤアブ(1♂1♀)の平均値は総飛翔距離:1.96km、総飛翔時間:35.3分、総飛翔速度:3.38km/h、最長連続飛翔距離:0.085kmを示した。ミズアブ科のアメリカミズアブ(1♀)は総飛翔距離:9.43km、総飛翔時間:122.4分、総飛翔速度:4.621km/h、最長連続飛翔距離:11.03kmを示した。飛翔の連続性を回転の休止率で見ると、ウシアブ:0.64%、アオメアブ:2.1%、シオヤアブ:2.95%、アメリカミズアブ:1.81%で、ウシアブの連続飛翔性が顕著であった。連続飛翔の上5位までの平均飛翔回数はウシアブ:1272.96回、イヨシロオビアブ:208.4回、アオメアブ:85.73回、シオヤアブ:64回、アメリカミズアブ:132回であった。以上のデー夕から、ウシアブの飛翔能力が距離、速度、持続性においても極めて優れていることが理解された。一方、アオメアブ、シオヤアブでは最長連続飛翔距離がウシアブの2〜3.9%で、飛翔前後の体重減少率がウシアブの平均23.6%に対してアオメアブ:2.84%、シオヤアブ:4.9%とより低いことが分かった。アメリカミズアブは前2種ほどに飛翔は断続的ではなく、規則的に一定の距離を飛び、体重減少率が7.78%とムシヒキアブ類よりも高かった。飛翔能力はこれら調査種類の活動習性をよく反映したものと思われた。

衛−5 琉球列島石垣島産コガタハマダラカ Anopheles minimus の翅長と翅白斑、黒斑季節変化について 

○朴燕玉・宮城一郎・當間孝子 (琉大・医・保健)

 Anopheles minimus種群の蚊は熱帯熱、三日熱マラリアを媒介する重要な蚊である。本種種群は宮古島を北限にして東南アジアに広く分布している。中国やタイに広く分布するコガタハマダラカは地方により少しずつ形態が異なり、同胞種A.C.Dの生息が報告されている。最近Pradya et al. (2001)は八重山諸島産の本種群は新しい同胞種として報告している。コガタハマダラカの形態の季節的変化を知る事は他地域の個体と本種群の違いを知るために重要な事である。本種群を区別する重要な特徴の一つである翅の白斑の有無、白斑と黒斑の長さや比を明らかにするために琉球列島石垣島のコガタハマダラカの翅長や白斑等について季節的な変化を調べた。石垣島で年間を通して採集したコガタハマダラカの高齢幼虫と蛹を羽化させたピン標本の中から1998年12月、1999年2月、4月、6月、8月、10月の成虫雌、雄の右翅をスライド標本にし、前縁脈Costaの肩斑(HP、PSP)、分脈斑(SP)、亜前縁斑(SCP)、前端斑(PP)の斑長の測定や全翅長に占める割合を計算した。さらに、R2+3脈、R2脈、R3脈、R4+5脈、M脈、Ml+2脈、M3+4脈、Cu脈、Cul脈、Cu2脈、A脈上の黒斑長さについても調べ、各々の脈に占めるそれらの割合を計算し季節変化を調べた。その結果、前縁脈上のPSPとR4+5上の黒斑、A脈上の黒斑などに季節的変化が認められ、中国、タイ産コガタハマダラカに無いHPが石垣島産のほとんどの標本にはあることが明らかになった。

衛−6 ラオス国カムワン県のマラリア流行地におけるハマダラカの調査−人吸血嗜好性と吸血活動時間について

○當間孝子1・宮城一郎1・才田 進1・都築 中2・岡澤孝雄3・小林 潤4・Hongkham Keomanila5・Samlane Phompida5 (1琉大・医・保健、2JOCV、マラリア風土病対策、ラオス、3金沢大・留学生センター、4琉大・医・寄生虫、5ラオス国立マラリア、寄生虫、昆虫学センター)

 文部省の科学研究費(国際学術調査)により、ラオスのカムワン県マラリア流行地でハマダラカの調査を行っている。1次調査1999年7月〜8月(雨期)と2次調査12月(乾期)の結果については、一昨年、昨年の日本衛生動物学会大会で報告した。今回は採集された蚊の人吸血嗜好性の程度や活動時間について、3次調査2000年8月(高温)の結果も含めて報告する。調査はタケク近郊とボラパ郡の村で行い、人囮法と動物囮法で蚊を採集した。多数採集された蚊の中で、Anopheles dirus s. l. が最も人嗜好性が高く、An. nivipesAn. philippinensisは人吸血嗜好性は低かった。18:00から24:00まで行った人囮法や動物囮法で多数採れた蚊のほとんどの種が、気温の高くなる雨期には21:00から24:00、気温の低くなる乾期には18:00から21:00に吸血活動する割合が多くなった。2000年8月(雨期)に、ボラパ郡のタパチョン村で18:00から翌朝6:00まで人囮法で蚊の採集を行った結果、An. diruss. l. は21:00から早朝4:00頃にかけて吸血活動が活発になることが明らかになった。一方、An. Minimus Aは明かな活動のピークが見られなかった。

衛−7  ELISA法によるラオス産ハマダラカからのマラリア原虫の検出 

○才田進1・都築 中2・當間孝子1・宮城一郎1・小林 潤3、Samlane Phompida4 (1琉大・医・保健、2JOCVマラリア風土病対策・ラオス 3琉大・医・寄生虫、4マラリア・寄生虫・昆虫学センター・ラオス)

 当研究室は、ラオス国立マラリア・寄生虫・昆虫学センター(CMPE)と共同で1999年から3年間の計画で文部省科学研究費補助金(国際学術研究)により“ラオスにおける蚊媒介性感染症の疫学的調査研究”を行っている。これまでに、ラオスのハマダラカの生態について学会等で報告してきた。また、採集したハマダラカ雌の少数個体について調査地にて顕微鏡下で解剖し、オーシストを検出した事についても報告した。しかし、採集されたハマダラカの大部分は、マンパワーの不足等のために解剖する事が出来ず、標本として日本に持ち帰る事が多かった。1999年〜2000年ラオス中部に位置するカムワン県の数村において人囮および動物囮法で採集し、持ち帰ったハマダラカ乾燥標本を用い、熱帯熱および三日熱マラリア原虫(スポロゾイト蛋白抗原)の検出をELISA法で現在行っている。その結果、数個体から熱帯熱及び三日熱マラリア原虫がそれぞれ検出された。これまでに行ってきたカムワン県での蚊の調査結果から重要なマラリア媒介蚊を推定した。

衛−8  蚊類のデングウイルス媒介能(2) PCRを用いたウイルス媒介蚊の識別 

○福田昌子1・江下優樹1・安西三郎1・大塚 靖1・青木千春1・高岡宏行1・高崎智彦2・山田堅一郎2・内田幸憲3・倉根一郎2 (1大分医大・感染予防医学、2国立感染研、3神戸検疫所)

 デング熱・デング出血熱は、熱帯・亜熱帯地域のみならずアメリカやヨーロツパ諸国においても公衆衛生上重要な感染症になりつつある。ウイルス性疾患である本症は、ネッタイシマカAedes aegyptiやヒトスジシマカAedes albopictusなどのシマカ亜属の蚊によって媒介される。今回は、PCR法を用いたデングウイルス媒介蚊の鑑別法について検討を行った。その結果、ハエ目に共通なプライマーを用いた場合は、ネッタイシマカ(タイ、グアテマラ、アフリカ)では約350bp、ヒトスジシマカ(日本、タイ、アメリカ)では約530bpの大きさのPCR産物が得られた。両者の間に、約180bpの大きさの違いが認められた。次に、日本、タイ、アメリカの3地域由来のヒトスジシマカのrDNAシストロンのITS2(InternalTranscribed Spacer 2)領域を比較したところ、多くは相同配列であった。また、一部配列(10塩基)では2種類の配列が日本産とタイ産ではみられ、アメリカ産ではそのうちの1種類だけがみられた。これらのことから、日本に生息しないネッタイシマカのサーベイランスが、ヒトスジシマカと対比してPCR法で可能と思われた。また、rDNAシストロンのITS2領域の一部にいくつかの変異がみられたが、詳細については今後さらに検討する予定である。

衛−9 ヒトスジシマカのwhite遺伝子配列の比較 

○大塚 靖・高岡宏行 (大分医大・感染予防医学)

 White遺伝子は複眼の色素に関係する遺伝子である。我々が確立した複眼が白い突然変異体はこのwhite遺伝子座の変異によるものと考えている。今回、ヒトスジシマカのwhite遺伝子の一部の配列を決定し、これまで報告されている他種のwhite遺伝子の配列と比較した。また、我々が配列を決定したヒトスジシマカはインドネシアで採集されているが、アメリカで採集されたヒトスジシマカのwhite遺伝子の一部の配列がすでに決定されていたので比較したところ、約250塩基のイントロンは2つの配列で大きく異なっていた。このイントロンがヒトスジシマカの種内変異を知るために適切な領域であるか検討するため、複数の個体についてこのイントロンを挟むプライマーを使いPCRで増幅し配列を決定し比較したので報告する。

衛−10 The hypopharynx of male and female mosquitoes

○Isra Wahid, Toshihiko Sunahara and Motoyoshi Mogi (Dept. Microbil., Saga Med. Univ.)

 In blood-feeder female mosquitoes, the hypopharynx stylet is one part of the fascicle, the structure that pierces in to the host skin during blood feeding. As other parts, the hypopharynx is a free stylet. However, since male mosquitoes do not feed on blood, their mouthparts are less developed. The hypopharynx fuses with the inner wall of the labium, while maxillae and mandibles are much shorter than the labium. Only the labrum and the labium are well developed and function as a food canal and its sheath, respectively. Light microscopy and scanning electron microscopy were done to compare the hypopharynx of males of several mosquito genera and, in addition, females of autogeny mosquitoes. The hypopharynx of males of both autogeny and anautogeny mosquitoes fuses with labium inner wall as long its length, but are distinctly different structures from the inner wall of the labium. Dissociation occur on the hypoharynx of female autogeny mosquitoes: Toxorhyncites sp. has free hypopharynx as in anautogeny mosquitoes, whereas it fuses with the labium wall in Malaya sp. as in male mosquitoes.

衛−11 大分県におけるメマトイ類調査 

○青木千春1・高岡宏行1・林 利彦2 (1大分医大・感染予防医学、2国立感染症研究所・昆虫医科学部)

東洋眼虫の症例報告のほとんどは九州中南部からのものである。このことは、線虫の発育に好適な温暖な気候、媒介昆虫とされるメマトイ類の分布状況に由来すると思われるが、媒介昆虫に関する野外調査はほとんど報告されていない。我々は、大分県下における東洋眼虫の媒介昆虫を明らかにし、その伝播機構を解明することを目的として調査を行っている。今回、大分県下の5ケ所において人囮法により採集したメマトイ類を同定したので報告する。採集の結果、A:カッパメマトイAmiota (Phortica) kappa、B:オオマダラメマトイA. (P.) magna、C:ツバメメマトイA. (A.) furcata、D:マダラメマトイA. (P.) okadai、E:クロメマトイCryptochaetum nipponenseの、少なくとも5種類が分布していることがわかった。さらに、季節消長について調査を行ったので、その結果の一部を報告する。大野郡朝地町神角寺渓谷で、2000年7月から11月までと、今年2月から現在まで、少なくとも月1回の採集を行った。個体数が最も多かった種はA:カッパメマトイで、全採集数の約60%を占めた。メマトイ類が採集されたのは、4月から9月であり、Aでは8月に最も多くの個体が採集された。種類により、季節消長にわずかながら違いが見られるようであった。

衛−12 魚を用いた蚊の生物防除の有効性と問題点 

○砂原俊彦・茂木幹義・Isra Wahid ・Makmur Selomo (佐賀医科大・微生物、FKM, Hasanuddin Univ.)

 蚊の幼虫を捕食する魚を導入することで、蚊の発生を抑えようという試みは古くから行なわれてきた。例えば、カダヤシ(Gambusia affinis)は最もよく用いられてきた種で、顕著な効果を上げた例もあるが、一方で在来の魚種に対する負の影響も指摘されてきた。私たちは、インドネシアのチモール島に導入された2種頼のメダカ、パンチャックス(Aplocheilus panchax)とグッピー(Poecilia reticulata)が、河川や湧水池にどのように定着しているかを昨年の支部大会で報告した。今回の講演では、チモール島で継続中の調査結果の報告とともに、スラウェシ、フローレス、バリなどインドネシアの他地域での2種のメダカの分布についても報告し、魚を用いた生物防除の有効性と問題点について考察する。魚による捕食が蚊の発生を抑えるには、幼虫発生場所に魚が到達できることと、魚が高密度を維持できることが必要である。前者の条件を満たすには、藻類や抽水植物などや、孤立した小さな水溜りなどの避難場所が少ないことが必要であると考えられる。また後者の条件には水が安定に維持されており、かつ魚食魚の効果がおよばないことが必要であると考えられる。これらの間題に焦点をあて、主に水田での生物防除の有効性について考察する。

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文責:野口順子

更新日:平成13年11月26日